Mix UPトーク
Mix UPトークは、みんなで“わいわい”と集まり、未来の“わくわく”につながる多様なコラボレーションのきっかけになることを目指しています。各業界で活躍中の方を“話し相手”に、挑戦や失敗、日頃考えていることなど、毎回異なる“話し相手”が提案する演出スタイルを楽しみながら、お互いの表情が見える双方向のカジュアルな交流の場になることを目指した実験的な取り組みです。
会場のDNPプラザは、みなさんの「声」に耳を傾けながら、未来をもっと便利に、快適にする製品やサービスを共に考え、カタチにしていく施設です。地下1階にある「対話と協働」の拠点であるイノベーションラボを舞台に、モデレーターのDNP高林が皆さんに “話し相手”をご紹介します。
Mix UPトーク vol.1
2025.01.27(月)
- #プロダクトデザイン
- #デザインができること
- #デザインでできること
第1回の“話し相手”は、プロダクトデザイナーの横関亮太さん。二人が知り合ったきっかけは、Connected Lifestyleという社内プロジェクトでした。横関さんは外部デザイナーとして、ものと人との関わりを先端技術とデザインで向上させるIoTプロジェクトにおいて、使う人それぞれの生活に馴染む便利な製品のデザインを担当されました。
- 横関 亮太
- 1985年岐阜県生まれ。金沢美術工芸大学製品デザイン学科卒。2008年から2017年までソニー(株)クリエイティブセンター勤務。2017年RYOTA YOKOZEKI STUDIOを設立。ライフスタイルの多様化に寄り添い体験価値を高めるデザインを大切にし、家具、家電製品、生活用品など国内外の様々なプロジェクトにおいてプロダクトデザインやクリエイティブディレクションを行っている。「AIZOME chair」がVitra Design Museumに永久所蔵された。iF Design賞、Good Design賞など受賞多数。
始まりは質問から
横関さんの個性が垣間見れた、最初のアプローチ。自己紹介の前に、会場の参加者に向けた「なぜみなさんは今回参加しましたか?」という質問からスタートしました。それによって話題を変えるかも、という発言もあり、好奇心としなやかな思考と柔軟な姿勢がデザインに深く関係していそうです。会場からは、デザインの仕事をしているから興味がある、違う分野ではあるけれど参考にしたい、横関さんとごく最近まで仕事をご一緒していた、などの声があがりました。
モデレーターのDNP高林
原動力は、デザインが好き
新卒から10年間のソニー勤務時代は、サイバーショットや肩乗せスピーカーなど先進的な商品を手がけつつ、後半では副業を申請し、同時進行で家具など家電以外のデザイン領域でも精力的に活動されました。その理由は至ってシンプル。デザインが好きだから。副業の、家電だけでなくさまざまなプロダクトのデザインをしたい、という思いが結果的に独立につながりました。横関さんの思考や行動の自在さは、あくまでデザインがすべての中心です。その源泉は、最後のQAコーナーにて、参加者からの質問で明かされます。
図らずも、家電の新しいジャンルを開拓
ソニー勤務時代、ホームオーディオのデザインを担当することに。いい音で映画を楽しむための装置ですが、日本の住空間では重低音の振動がご近所迷惑に発展しがちでせっかくの機能を発揮できない、視聴中に家族からの呼びかけに気が付かず厄介な家庭内トラブル発生など、リアルな課題をも解決する“肩のせスピーカー”のデザインを担当したエピソードが印象的でした。社内でも肩のせ型は初めての商品で、売れるかどうかわからない、という意見に対する横関さんの解は、(どうせなら)ソニーらしくとことん尖り、例えば家電芸人に取り上げられるような個性的で高品質の商品を目指す、でした。実際にその狙い通りメディアに取り上げられ、あっという間に1年間の在庫が完売し、その後もしばらくは入手困難な人気商品に。他社も追随した結果、肩のせスピーカー、という家電の新たなジャンルを築くことになりました。現在でも販売している商品なので、短命では終わらない生活に寄り添うデザインであることが証明されています。
下駄からヴィトラ
副業で始めた家具のデザインも、地元岐阜で引き受けた下駄作りに端を発します。郡上踊りというお祭り用の下駄を作りたい、と地域の方から依頼を受けた当時20代の横関さん。今なお日本古来の藍染を継承している地元唯一の染物店で、下駄の鼻緒を作る際に見た光景がきっかけでした。天然の藍の染料が入った甕に布を何度も漬けて混ぜる工程で使用する手桶のグリップ部分が木製で、その色がなんとも渋く美しい藍色に染まっていたことに着目。一般的に藍染は布や紙を染める日本の伝統技法ですが、藍染めで木の椅子を作りたい、と会社に副業申請し個人のデザイン活動を本格的に開始しました。2016年に個人で初参加したミラノサローネで「AIZOME chair」を発表し、世界中の優れた椅子をコレクションしているヴィトラデザインミュージアムのパーマネントコレクションになるなど、国内外で活躍するきっかけになりました。やがて会社の業務も個人活動もどちらもやりたい仕事ながら両立することが悩ましいほどの業務内容と量になり、独立してデザイン会社を起業することに。
大切にしていること
独立しても、会社員時代から一貫して変わらないことを大切にしています。現在の会社の業務を一言で表すと、“かたちあるもののデザインとそれに紐付いたブランディングやディレクション”。ライフスタイルの多様化に寄り添う体験価値を高めるデザインを大切にし、これまでの経験を活かして家具、家電製品、生活用品など多種多様で幅広いプロジェクトを国内外で展開しています。開発手法をリサーチから始めることは王道ですが、敢えてまず手を動かす。例えば、素材を実際にみんなで手に取りワークショップ形式で検討し、プロとしても生活者としても目や手など実感覚を大事にしています。一方で失敗から学んだことは、“諸事情を最終製品に見せない”。この場合の諸事情とは、組織内外で起こりがちなさまざまな矛盾や、優秀と言われるデザイナーがデザインすれば全てうまく行くという幻想などを総称する言葉です。具体的なデザイン作業に入る前に、デザインは始まります。一方的ではない、双方向のコミュニケーションとプロセスで諸事情を事前に回避し、デザインの力を最大化することは欠かせません。
3つの指針
体験価値を高めるデザイン
使いやすさ、心地良さ、実現性を兼ね備えた社会実装によるユーザーの体験価値を高める。
情景に溶け込むオブジェクト
モノを取り巻く空気感、背景にあるストーリー、記憶のなかにある情景を想起させる。
人間らしさを忘れないプロセス
人との対話を大切かつ丁寧にコンセプトを整え、手と心でモノの細部まで仕上げ届ける。
具体的な事例として、幅広い商品の多様なアプローチを挙げられました。車の内装素材の開発から未来の車のあり方、現在の生活と地域の工芸を融合した仏壇、スムーズに暮らすためのちょうどいい便利を形にしたIoTサービスに伴うプロダクトの提案、ありとあらゆるデザインの打席に立ち続け、出塁する日々。
その中でプロダクトデザインの依頼からスタートし、最終的にブランディングまで手がけたある化粧品容器メーカーの事例が印象的でした。当初の依頼内容は、「優秀な外部デザイナーを起用して、新しくかっこいいものを作って売り上げを上げる」でした。売れるデザイン、のヒントはクライアントにあるので、課題の本質を探ることから始めます。業界全体やクライアントへのリサーチの結果、この業界全体の特徴として激しい競争よりも各社が共存していること、企業としては新規パッケージ開発とともに既存の商品見直しも必要なこと、化粧品会社に選ばれるための打ち出し方にも改善の余地があること、など、ほぼコンサルティングに近い業務に着手します。また、スタッフレベルのワークショップを実施することにより、現場レベルでの共創が共感を生み、共存できる社会の一員を目指す企業ミッションを体現したプロダクトの開発に繋げていきました。
当時の化粧品業界では、科学的な要素を全面に押し出していました。トレンドに敏感な化粧品業界に選ばれるデザインとして、科学を想起させるフラスコ型容器を新規で開発したり、化粧品容器の特性を活かしたおしゃれかつナノバブルを発生させる機能的なプロテインシェーカーを開発するなど、ものから始まる話題性も意識したプロダクトを提案しました。また、商品を魅力的に見せる装置の、ショールームもリニューアル。総合的なディレクションで商品や企業の魅力を可視化した結果、来場者数が倍増するなど商機拡大の成果は多方面に渡りました。
手掛けたデザインは一つ一つに豊かなストーリーがあり、大きなコンセプトから実利に繋げる事例は、いつまでも聴いていたいほどの面白さでした。会場と問いや意見を交換するコーナーでも、参加者と横関さんの間でかなり踏み込んだ話になりました。
「デザインをする上で、道具へのこだわりはありますか?」
横関さん:昔は書き心地の良いペン、とかこだわったこともありましたが、最近は道具に脳を固定されてしまうから気にしません。筆を選ばない、というか。発想の幅を広げるために大事なことで、実は効率もいいです。例えば、CADしか使わないと、結果的にCADでしかできないデザインに引っ張られてしまい、ものによっては粘土を使って実際に自分の手で作った方がいいような場合もあるので、道具=手段にはこだわらないです。
「デザイン費の設定が難しいです。(発注、受注どちらの側でも)」
横関さん:その都度話し合いになりますが、業務を3つに分類して整理したり、業界の商慣行や個別の業務内容で調整しています。また、自分として面白そう!すごくやりたい!金額以上にメリットがある!と判断すると、費用面には目をつぶって引き受けてしまうこともあります。
「仕事のモチベーションは?」
横関さん:まず、デザインの仕事が楽しい。独立した今は、いろいろな業界を知ることができて、またその情報や経験が仕事に役に立つし、ビジネスの場だけでなくお酒を飲みながらの話もまた楽しい。
皆さんは幼少期何になりたかったですか?
個人的な話をすると、子供の頃から同居していた祖父の影響が強いと思います。祖父はいつも何かDIYしていた記憶があります。例えば、ある日帰宅したら、明らかに祖父お手製のライトが玄関に付いていたり。そういう影響を受けたのか、幼少期からいつも何か作って楽しんでいた記憶があります。ものづくりに加えて考えることも好きで、幼稚園の時になりたかった職業は「レンタルファミコン屋さん」。当時はファミコンがものすごく高いのに、一切お試しすることができず、そういうお店があったらいいな→自分がやろう、という考えに至りました。自分で迷ったりしたときに、幼少期何をしていたか、何になりたかったか、自分で掘り下げることをおすすめします。
横関さん:参加者の皆さんは、どんな人のどんなトークが聞きたいですか?
DNP高林:テレホンショッキング的に、次の人を紹介する、とか
横関さんとDNP高林は、仕事を通じて家族ぐるみのお付き合いをしているそうで、ユニークな横関家のエピソードが披露されました。仕事から始まる有機的な関係性で成り立っている今回のMix UPトーク。
横関さんから、外部のデザイナーの選定や、いい仕事をするコツとして、依頼する側が主体的にデザイナーの仕事だけでなく人となりもリサーチして選ぶとより成果が上がると発言がありました。自身が主に欧州で仕事をした経験から、企業側にディレクションを担当するスタッフがいて、仕事だけでなく人柄やスタイルなど総合的な情報や経験を持っており、適切に外部デザイナーをアサインする手法が理にかなっている、と思ったそうです。
最後に、プロダクトデザイナーとしてマスプロダクト/工業製品をデザインすることは、多種多様な大量のゴミを出すことも自覚して、そうした社会課題を解決する活動も自主的に行なっている事例を紹介されました。
デザインができること、デザインでできること、横関さんの活動から目が離せません。終了後も、会場では人の輪ができて話が弾んでいました。「こういう親密な場はとても貴重で、続けることが大事」という声が横関さんや参加者から寄せられ、実験的な試みは続きます。
(文・鈴木 潤子)