Mix UPトーク
みんなで“わいわい”と集まり、未来の“わくわく”につなげるMixUPトーク。毎回異なるテーマや演出で、多様なコラボレーションのきっかけになる実験的な取り組みに挑戦しています。
Mix UPトーク vol.2
2025.04.02(水)
- #好奇心が原動力
- #デザインが好き
- #パラレルキャリア
- #自分らしい働き方を見つけよう
- #リスキング
今宵、立ち飲みトーク
DNPプラザの地下1階にあるスペースが、一夜限りの立ち飲み屋に大変身。照度を落とした空間には「余市」と屋号が書かれた提灯にほんのり光が灯り、壁には手書きの“お品書き”ならぬ“お話書き”。登壇者と10名ほどの参加者全員で、おつまみや飲み物片手に立ち飲みスタイルでスタートしました。今回皆さんに紹介するのは、新井亨さん。モデレーター高林の「今夜はぼちぼちゆるく楽しく。」宣言を受けた新井さんの「会場から注文があれば、その場で喋りながら焼酎作ります。」という阿吽の呼吸の二人は大学の同級生で、下の名前で呼び合うカジュアルな雰囲気でトークは進みます。会場からは「うまいなー、これ!」「おかわり、いいですか?」という声が飛び交い、まさに実験的なコラボ施設ならではの醍醐味です。
- 新井 亨
- 株式会社良品計画空間設計部 資材調達・開発課 課長
- proshirout 代表
- 無印良品のインテリアアドバイザーを経て、その後家具開発担当として、約20シリーズ以上の家具や収納用品の開発行う。現在は什器・家具・内装材などの空間商材や、全国の山の現場を訪問しながら国産材を活用した商品の企画開発を担当。傍ら、proshiroutの屋号で架空の立ち飲み屋「余市」の開催や賃貸のホームステージング、都市伝説系ラジオパーソナリティーなど、やりたいことを小さく実現中。
お通しはオープンチャット
トークに入る前にモニターに映し出したQRコードで、この場限りのオープンチャットが可能に。話をしながら聞きながら、相互に質問や意見が自由にやり取りできて、それがモニターで即時に反映し、参加者全員が共有できる環境を提供しました。結果的には活用されずに終わりますが、密かに用意された代案の存在をこの段階では誰も知る由もありません。食べ物やお酒だけでなく、いい雰囲気を作る“おつまみ”を随所に仕込む新井さん。
悩ましい“器用貧乏”で、やりたい仕事を掴むまで
会社員と専業主婦の両親の元に生まれ、物静かな幼少期を経て小中高時代はこれといった強烈なエピソードもなく、社会に対してやや斜に構えるスタンスを確立し、親戚に建築家がいたので大学では漠然と建築を学ぶことに。ゼミ選択で悩むそんなある日、Casa BRUTUSのムック本『無印良品の秘密!?』を手にします。コンセプトやものづくりの表裏に触れて、これだ!と開眼、「かっこいい!!」。80年代日本の高度消費社会へのアンチテーゼから誕生し、それでいて生活に寄り添うものづくりと独特のビジネス手法、デザインしないデザイナー募集など、目指したいものがそこにありました。建築やデザイン、ものづくりに必要な技術や知識は中の下レベルながらそつなく一通り身につけ、建築学部にも関わらず卒業論文は、無印良品の「デザインしないデザイン」。新卒での良品計画の入社試験は不採用ながら、在学中に店舗アルバイトを1年経験し、卒業後は同業他社に入社したものの、半年で退社。再び無印良品の店舗で今度はパートから店長代行を経てインテリアアドバイザーになり、収納の冊子を制作したり本社のインテリアを考えたりする仕事を任されました。その後、あまり前例がない人事異動ながら、インテリアアドバイザーから本社MD(マーチャンダイザー)の辞令を受け、現在は商品開発に携わる日々。学生時代の衝撃から現在まで、無印良品は変わらず人生の背骨であり続けています。それを支えたのが、好き嫌いや先入観なく無難になんでもこなすスキル。インテリアアドバイザー時代は、冊子を作るに際しコンセプトを考え、撮影用の家具を組み立ててスタイリングし、文章を書き、挿絵のイラストを描くなど、結果的にやってみたら色々こなせた新井さん。これといった欠点も得意分野も無く、自分としてはごくごく平均的すぎて悩ましい“それなりにできる=器用貧乏”は、憧れた未来に続いていました。
ジョーカー(Joker)として活きる
良品計画でMD(マーチャンダイザー)の仕事を始め、プロの仕事を目の当たりにした結果、器用貧乏な自分の活かし方が開花します。おりしも人事異動で、グローバルでメジャーな商品開発の部署から、ローカルでニッチな商品開発にシフトするタイミングでもありました。ちなみにマーチャンダイジングとは、「商品計画・商品化計画」の意味。お客様に商品を買っていただくために、商品の企画・開発や調達、商品構成の決定、販売方法やサービスの立案、価格設定などを、戦略的に行なう活動のことで、適正な数量と価格で、適切な時期と場所に供給できるよう、戦略を立てて実行する人を、MD(マーチャンダイザー)と呼びます。仕事をカードゲームのポーカーになぞらえて、器用貧乏=ジョーカーというポジションが最高の力を発揮することを発見します。チームで仕事をする商品開発は、業界プロの最強カードだけでは成立しません。間を繋いだりちょっとした役割を引き受けたり、器用貧乏な自分が5枚目として加われば、足りない部分を補いつつ新しいものを加えてミッションを達成し、チームから重宝されることに気が付きました。変化する市場や社会の状況にも対応しやすく、ひいては自分が心地いい居場所を作ることになるので、とりあえずなんでもやってみよう、というマインドセットをもたらします。器用貧乏ならではの成長戦略は、仕事だけでなく人生にも大きく影響しました。
好奇心、という名の引力
新井さんがひときわ強調するキーワードは、好奇心。どこにでもはまることができるジョーカーマインドで、自分だけでなく他人の好奇心をも刺激したい、という思いを実現します。一人コツコツ研究探求深掘りするのではなく、軽やかに新しい未知の領域に自分も人も巻き込むプラットフォームの一つが‟proshirout”(プロ素人)。何をするにもはじめはシロウト、という意味の屋号です。「初めてのことをやるのは勇気がいるけど、シロウトであることにプロ意識を持つことで、恥ずかしさは少なくなり、 どんな一歩も踏み出せる。だって、はじめはみんなシロウトですから。」というメッセージは、多くの人を勇気づけています。むしろ怖いもの知らずな素人の強みで、知らないことや気になったことはなんでもやってみる好奇心が、(架空の)立ち飲み屋や、古事記にインスパイアされて始めたポッドキャストのパーソナリティ、クラフトビール作りやインテリアのスタイリング、オンラインフェスのオーガナイザーなどなど、新井さんを核とした幅広い活動の引力になっています。それは、たとえ社会貢献的なものだとしても、楽しい/楽しむことが前提でいろんな“やりたい!”を実現しているので、使命感や悲壮感ではなく、飄々と軽やかな雰囲気が人を惹きつけているのかもしれません。
酒の肴にお品書き
林業研修で1ヶ月滞在したこともある宮崎で、出張ついでに購入したいも焼酎をしゃべりながら次々と会場で振舞う新井さんに、参加者皆さんハイピッチでお酒が進みます。前半は108枚ものパワポを駆使してのお話しだったのでオープンチャットは活用されませんでしたが、受付で配布したおつまみ用の紙皿の裏側に番号を記載してあり、その番号を新井さんが指名して会場から意見や質問を促します。壁のお品書き然り、場数を踏んでいるからこそ、ゆるい中にも抜かりのない進行で、会場との会話のキャッチボールが始まりました。
参加者:本業とそれ以外、またONとOFFの切り替えはどうしていますか?
新井さん:たとえば、今日は本業の勤怠を終わらせてここに来て話をしています。スーパーフレックスな職場なので、裁量は社員に任されていて不自由はありません。また、好きなことしかしていないので、むしろ複数の役割や立場があることで、心のバランスが保てていると感じています。ダブルワークはどちらも楽しい。また、どちらかで負担や不安があっても、その度にもう片方が自分を救ってくれます。
参加者:小杉湯のイベントって?
新井さん:自分のように2足の草鞋を履くサラリーマンが増えているのでは、と思います。たとえば最近原宿の「ハラカド」に開業した高円寺の銭湯、小杉湯は、ダブルワークの若い人がたくさん関わっています。公衆浴場は法律で価格が定められていて、勝手に料金設定ができません。なので、サウナなど別のサービスを提供して営業努力をしている銭湯が多い中、小杉湯はサウナはやらずに別の方向性を探りながら地域に密着した展開や、しっかりしたブランディングをベースに経営を成長させています。立ち飲み余市は基本的に間借りをして活動しているので、空きスペースや番台でもやらせてもらいました。集客力は素晴らしく、2日間のイベントで過去最高の200杯を記録する盛り上がりでした。そんな小杉湯から発生した“銭湯暮らし”は、銭湯のある暮らしを広めるために、銭湯やお風呂を拠り所にした緩やかなチームです。ベンチャー企業から飛び込んできたCOOや大企業勤務の方、若い世代を中心に40人ほどの方々が、数々のプロジェクトで街や人を温めています。「ハラカド」開業時には、国産材の家具や国産タオルを紹介するなど、お金を介在せずになんとなく関わらせいただき、一番風呂に入ることができました。
参加者:神ラジオ、とは?
ポッドキャストは「神ラジオ」といって、個人的に興味がある神話、古事記をもう一人のパーソナリティと読み解きながら好きに話す、という番組を45回続けています。そもそもは祖母が修験者で、幼い頃から神話に親しんでいました。かなりニッチで独特な内容にも関わらず、450人ぐらいが聞いてくれています。
高林:最後に、将来の夢は?
新井さん:赤帽、です。赤帽とは、軽貨物運送を営む個人事業主の共同組合で、さまざまなニーズに柔軟に対応する流通のサービスです。これまで身についた自分自身のキャリアや趣味の集大成として、自社便(赤帽)で古民家から整理整頓のスキルを活かして回収した古道具を賃貸のインテリアスタイリングに活用したり、本業である無印良品の出張先でお酒やつまみを仕入れて、古道具が購入できる立ち飲み屋を作ること。以前仕事で出会った赤帽さんは愛犬をお供に仕事をしていたし、自由な働き方が魅力の一つかもしれません。古道具の回収も日本全国で課題になっている空き家問題とも関連していて、流通も働き方改革で厳しい壁が立ちはだかっていますが、荷物を運ぶだけでなく家具の組み立てとかスタイリングとか立ち飲み屋とか、器用貧乏ならではの多様でフレキシブルなサービス展開が楽しみです。これまで関わった人脈も大いに活用したいと思います。
シメは余韻とともに
トークの後に寄せられたコメントをご紹介します。
「新井さんの引き出しの多さに驚きました!」
「自分も器用貧乏なタイプと思っていましたが、新井さんの好奇心と行動力を目の当たりにして全然違うなと大変刺激を受けました。」
「企画、場所としても、DNPがこのようなイベントを許可するイメージが無かったので、その点も発見がありました。」
「ご自身をジョーカーに例えていたのが面白かったです。」
「初めて参加しましたが、とても楽しかったです。今までの経歴や本業をしながら副業の経緯など勉強になりました。なんでも好奇心を持つことが大事ですね。」
「ゆるい感じが気楽に聞けて話せて、色々学びになります。」
「働き方や考え方にすごく共感できて刺激になりました。」
などなど。
面白い、は、自分や社会を動かす原動力。次回のMix UPトークも、まだまだ面白くなりそうです。
(文・鈴木 潤子)